初めての冬山登山は美しい景色だけじゃなく、登山の喜びを教えてくれた。山行を振り返りつつ、その喜びの中身について考えてみたいと思います。
蓼科山下山後、美濃戸山荘登山口へ移動
麓から登山口のある美濃戸山荘駐車場までの道のりは15分ほど凸凹道を進む他ない。YouTubeでは4WDである程度車高があればなんとか通れるということだったけど、普通に轍に沿って進むとハイエースの腹が地面に擦れて傷つけてしまいました。

やむなく轍を諦めて、土手際と車道中央部に車輪を乗せて進むことにしました。途中、熊笹や硬く乾燥した枝に阻まれ、車体が傷つきました。歩けば1時間ほど増えるものの麓に駐車することを強くお勧めします。
駐車場代は1日1,000円。登山は明日から1泊2日の予定なので3日分を支払いました。この料金が林道の整備に使われることを切に望みます。

氷点下10℃の車中泊は、想定外のことが起こります。飲み物は全て凍結、チョコレートは石状態、カセットボンベは使用不能、ポータブル電源も出力低下、羽毛布団は寝息がかかる部分は凍結。ある意味笑えました。唯一飲めたのはポットに残っていた昨日のお湯だけ。
八ヶ岳(赤岳)登頂にチャレンジ
2024年の大晦日、美濃戸山荘登山口を7時に出発して、行者小屋経由で赤岳登頂を目指しました。登りは南沢ルートを選択。

1時間半ほど登ったところで、えらく下りが続くことが気になりました。すれ違った登山者に行者小屋に向かう方向を確認すると案の定、逆行していて、往復で2時間程度ロスしました。
ランナーズハイのように無心で歩いていてY字に分岐してたところを戻る方向に折り返してしまったようです。幸い逆走ではあったものの、遭難することなく救われました。

無意識に歩く時間が長くなればなるほど、体力や精神的には楽ですが、大きなリスクを伴っていることを肝に銘じる出来事となりました。
通常は2時間半程で着く行者小屋に4時間かけて到着。その頃には、赤岳に向かう尾根沿いは暴風が吹き荒れ、上級者でも避難するほどの状態だったので、当日の登頂は諦めました。

逆行せずに予定通りに行者小屋に着いていたら、もしかすると赤岳登頂に向けて前進し、危機に直面していたかも知れません。
ひとまず、行者小屋で味噌ラーメンを食べて、赤岳山頂から下山途中に宿泊するために予約していた赤岳鉱泉(山小屋)に向かうことにしました。

行者小屋から赤岳鉱泉まで、30分の距離でも強風と吹雪の中、不安な山行でした。

赤岳鉱泉に着いたのは14時前。逆行した時間と赤岳の登頂を回避した分で時間が相殺され、赤岳鉱泉には予定の時間通りに着きました。

部屋に案内されるまでに、少し待ち時間があったので、缶ビールを1本飲み干して山行の疲れを癒しました。赤岳鉱泉はアルコール系のドリンクメニューが充実していて目移りします。
多くのYouTubeでグルメ山小屋と称されているので、夕食への期待が高まりました。施設も清潔で古くても磨き上げられていました。サービス面では、従業員さんの応対や言葉の端々に、山の安全を願う思いを感じ取ることができました。

大部屋は7人収容で、パーソナルスペースは一般的なサイズでした。それでも暖かい図書室や自炊スペース(6人分程度)、食堂(時間帯により使用可能)が開放されていて、寛ぐことができました。

夕食は名物の焼肉ではなく、ハンバーグだった。それでも、ポトフは具沢山ておかわりもOKだったので、満足度の高い夕食でした。

夕食後、しばらくすると大晦日恒例のビンゴ大会が催されました。事前に500円でビンゴカードを1枚購入して参加しました。1人で5枚10枚と購入して参加している人が多くて驚きました。
ビンゴが始まる前の挨拶で赤岳鉱泉の管理者から山小屋は生命と隣り合わせの特殊な環境下であること、今年ガイドさんが亡くなったこと、小屋で働く人が別の山で行方不明になっていることを告げられました。
そして「登山は趣味であって、決して修行ではない」だから安全を最優先に撤退することも選択肢として、楽しんで欲しいといった話がありました。
日本人は苦しいことに耐えることが心の修行だと考えることがあるように思う。近ごろはそれほどでもないのかも知れませんが、昭和世代にはまだまだ支配的な思想だと思う。

ビンゴの方は1枚では当たらないかと思いきや、早い段階でビンゴすることができました。ビンゴした人は、その後、くじ引きで賞品が確定するのですが、外れ賞的なバンダナを引いてしまいました。これも旅の思い出かな。
良かったことといえば、山小屋全体が明るく温かい雰囲気に包まれていたこと。同じ雪山の中を歩いてたどり着いた安堵感や共有体験がそうさせているのだろう。

八ヶ岳(赤岳)再チャレンジ

翌朝、朝食を済ませて7時に赤岳山頂に向けて出発しました。昨日は赤岳鉱泉までチェースパイクを履いてきたのですが、今日はアイゼンを装着した。ストックもザックにくくりつけ、ピッケルとヘルメットを装着。

今朝は天気も良く、風も穏やかだったので非常に歩き易かったです。1時間半ほどで山頂にたどり着きました。途中、斜度がきつく、足を取られる場面もあったものの、ピッケルを使いながら3点支持(両手両足のうち3本は安定した場所を確保)を意識して登り切りました。

山頂からの景色は、息をのむ美しさ。ずっと留まり続けたいと言う思いとは裏腹に、暴風と氷点下の冷え込みが、それを許しません。自然の脅威を前に、なすすべもなく退散しました。

アイゼンを装着した下りのリスク
下山途中に事故が起こるケースが多いので、注意深く下りました。特にはしごや岩場はアイゼンが引っかかり、滑落の恐れがあるためより慎重に。

行者小屋まで戻ったところで、カレーを食べてひと休み。このタイミングでアイゼンからチェースパイクに履き替えて下ることにしました。アイゼンを脱ぐと一段落。ここでようやくホッとしました。
あとは、フラットフィッティング(ベタ足)を意識しながらチェーンスパイクを逆ハの字に着地するように心がけて下山完了。

赤岳の冬山登山を終えて
赤岳鉱泉での小屋泊を経て、今回の八ヶ岳連山遠征の最大の目的地である赤岳山頂にたどり着くことができました。ひとりで本格的な冬山登山にチャレンジすることに不安しかなかったものの、装備を揃えて予行練習を重ねることで不安が和らぎました。結果的に安全に登山ができて、久しぶりに達成感を味わうことが出来ました。
山小屋の図書室で五木寛之氏の『不安の力』という本を読みました。自分なりに解釈すると、不安はポジティブなもので、生きている証であるといったことが書いてありました。

初めての雪山登山は「不安」との戦いでもありました。もし、転倒して停滞したらどうなるんだろう、吹雪でトレース(踏み跡)が消えて迷うのではないか、急登で滑落するかも・・・。
雪山登山の不安を上げだすとキリがない。そのひとつひとつの不安と向き合い、少しでも不安を和らげられるよう、装備を整えたり、練習したりしました。冬山登山にチャレンジする前から不安との戦いは始まっていました。
高校生の頃に観た「セーラー服と機関銃」という映画で、薬師丸ひろ子さんが機関銃をぶっ放して、最後に一言「快感」というシーンがありました。このシーンがなぜか脳裏に焼き付いて離れません。
大人になってから調べてみると「快感」とは生と死の狭間だという。言い換えれば、快感とは生きていることを実感することだろう。
冬山登山は死のリスクと隣り合わせだから様々な「不安」とそれを乗り越えた時の「快感」が交互に訪れる体験の連続にも思えました。
だからこそ多くの見知らぬ人達が、山小屋で生きてたどり着けた喜びを共有し、あの明るく温かい雰囲気に包まれるのだろう。
さらに言えば、不安を克服し快感を噛みしめ、再新再生される。だから、冬山登山にこぞって向かうのだと自分なりに整理がつきました。
冬山登山は生きる喜びを教えてくれたように思います。さて、次はどの山に登ろうか。
26/100名山踏破チャレンジ【八ヶ岳 赤岳】編
【難易度4】【眺望度5】【愉快度4】 ※5段階評価(5が最高点)個人の主観的な感想です。



コメント